【独り寝のお作法】

60.性暴力サバイバーによる映画『ら』を観て、いま一度考える「被害者の非」


 正視できず、何度も目を閉じてしまいました。しっかり見ておくべきものだとわかっていながらも、思わずスクリーンから顔をそむけてしまいました。映画『ら』--不思議なタイトルです。拉致の〈ら〉を示していて、この漢字そのものに〈無理につれていく〉という意味があるそうです。実際に起きた連続女性暴行拉致事件をもとに、その被害者のひとりである女性が監督となって映像化した作品です。タクシー内でのレイプ未遂について触れた先週の記事を書き終えてすぐにこの映画のことを知り、観にいってまいりました。
 映画のなかでは3人の女性が被害に遭い、監督が自身を投影した少女「まゆか」は、第一の犠牲者です。アルバイトの帰り、暗い夜道を歩いていて突然、暴行を受け、ガムテープで顔を覆われ、手足を縛りつけられて、車で運ばれていきました。まさに〈運ばれた〉という感じなのです。人格あるひとりの人間を、まるでモノのように扱う男性に、嫌悪感と恐怖が一気にブーストされます。
 なぜ、彼女だったのか? アルバイトからの家路、時間帯は深夜です。車の通りも少ない、暗い道です。ただ、家に帰ろうとしていただけです。ほんとうにそれだけです。スカートは短いです。でもそれは彼女が好きなものを着ているだけです。そのさわやかなワンピースはよく似合っているし、レースがついた三つ折りのソックスもちょっと幼くは見えるものの、当時の流行のものを身につけているにすぎません。
 ほかの被害女性が襲われた状況も同様です。女子高生は制服姿のまま近所の親戚に母親の手料理をおすそわけにいっただけ。OLさんは仕事が終わって自転車で帰宅していただけ。なんの落ち度も悪意もない人の日常生活に突然飛び込んできて、一方的に暴力をふるい去っていく人間がいる。〈女性である〉に〈たまたま襲いやすいシチュエーションにいた〉という条件が加わっただけで性的に蹂躙され、肉体だけでなく自尊心も人格も根こそぎ破壊される理不尽さに震えました。

女性も悪いのか?

 なんの落ち度もない。そう書きましたが、それでも心ないことをいう人がいることを、私たちは知っています。
「女性ひとりで深夜に出歩くから」 「バイト先でタクシー代が出るのに、けちって徒歩で夜道を帰るから」 「そんな短いスカートを履いているから」
 隙はあったのかもしれませんが、落ち度はありません。たとえ隙や落ち度があったとしても、女性をレイプしていいという理由にはなりません。それなのに、そうした隙や落ち度を「女性側が悪いとする」どころか、「誘っている」と言いたがる人まで世の中にいるから絶句します。先週の記事のコメント欄にもそのような書き込みがありました。たしかに私には落ち度がありましたが、こういう思考の持ち主は、非のないところにも非を見つけたがります。何かしらをあげつらってくるのが、そうした人たちの傾向だと私は考えています。
 レイプが発生する理由を被害者に求める風潮がゼロであれば、この『ら』はもっと違った映画になっていたでしょう。いえ、そもそも作られなかったかもしれません。加害した側が相応の裁きを受けるのであれば。被害にあった側が身近な人、警察、社会から適切に守られ、ケアされるのであれば……。
 被害にあった主人公は、法律的には〈強姦〉されていません。挿入はなかったのです。でも、見知らぬ男性に身体を拘束されて拉致され、車で連れ回され、身体に触れられる……ひとつひとつが絶望的におそろしい体験です。それでも強姦でない=挿入がなかったからよかったね、とは露ほども思いません。解放され、自宅に帰りついてすぐに彼女は110番します。しかし電話だけでは対応してもらえず、署に出向かなければならないと聞かされ、「じゃあ、いいです。大丈夫です」といって電話を切り、ひとり泣きじゃくります。この救いのなさから、彼女は自分を責めるようになります。

女性の非を教え込まれる

 自責の念がピークに達するのは、犯人逮捕後でした。事実確認のためでしょうか、警察から送られてきた調書のようなものを読んで、自分の後にさらに被害者がふたりいることを知ります。そして、そこに書かれた情報をもとに想像のなかで彼女たちの被害を追体験してしまい、さらに自責の念に苛まれます。私が強姦されていればこの人たちは被害に遭わなかったかもしれない、私が警察にちゃんと行っていれば次の被害者は生まなかったかもしれない……。なぜ被害者がこんなに苦しまなければならないのか? 彼女が暗い森にとらわれている場面は、ある意味、レイプシーン以上のつらさがあります。
 私は、彼女がその自責の念にとらわれていったのは、自発的なものではないと感じました。「私はまったく悪くない! 私のせいじゃなくて、その男が絶対的に悪いのよ! 一度レイプできなかったからって次の獲物を探すなんて、ただのケダモノじゃない。誰だって見境なく襲う畜生を前にして、なんとかできるわけないじゃない! 警察にいって根掘り葉掘り聞かれるのも、怖いに決まってる!」……と思って当然です。なのにそれができず、ひとり自分を責めて、自分が汚れたような気がして、会ったことのないほかの被害者に対して罪の意識を抱き続ける。自分が被害者であるにもかかわらず……。そんな状態に陥ってしまうのは、「レイプとはそんなもの」という社会からの刷り込みがあるから。そう思えてならないのです。
 「暗い道をひとりで歩いちゃ危ないでしょ!」「そんなミニスカート履いて……痴漢されちゃうわよ!!」……女性が身を守ることが大事なのは言うまでもなく、いろんなところで教育されるべきですが、これは裏返せば「私がそれを守らなかったからレイプされた」「性犯罪に巻き込まれたら、それは被害者の自業自得」という情報も、同時に植え付けることにもなりかねません。このあたりはさんざん議論されていることではありますが、主人公に「私が悪い」と思わせているのは、彼女ではなく社会にほかならないと感じ、そのいかんともしがたさを胸に映画館をあとにしました。

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■桃子さん

オトナのオモチャ200種以上を所有し、それらを試しては、使用感をブログにつづるとともに、グッズを使ったラブコミュニケーションの楽しさを発信中。著書『今夜、コレを試します(OL桃子のオモチャ日記)』ブックマン社。 ブログ twitter

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  • イク手前⁇(1)
    この前エッチしていたら、今までにない感覚におそわれました。 今までもとっても気持ち良くて涙が出ることもあったし身体がおかしくなりそうにもなっていたのですが、この前は、鼻水出るほど涙が勝手に溢れてきてとまらなくて、頭もぼーっとして、本当に変!と思いました。 気持ち良いけどやめてほしい!みたいな、、。これってイク前に感じるものなのでしょうか?人によって違うとは思いますが同じように感じた方いませんか?
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