【独り寝のお作法】

70. 不倫はあやまちだけど、罪ではない。人妻官能本に見る、不倫経験者の心模様


 「女という幻想をぶっ壊す! 本音情報サイト」を標榜するここmessyですが、記事そのもの以上にコメント欄で女性の本音がうず巻いていることがあります。痴漢をはじめとする性犯罪やセクハラに関する問題、少子化やジェンダーに関わる問題についてはアツく議論が交わされますし、女性タレントの容姿を「劣化」と表現する記事には決まって「加齢こそ自然」という指摘が入ります。あと盛り上がるのは不倫案件でしょうか? 特に元アイドルグループの例の方に対して、いまだ「謝るべき」と怒りも露わな書き込みをする方がいて、私は首をかしげてしまいます。

 ほんとうに理解できないので、「謝る」という語を辞書で調べたほどです。そこには「悪かったと思って相手に許しを願う。わびる」とありました。なるほど、不倫をしたタレントが「許しを願う」姿を見て、溜飲を下げたいのですね。もっと言うとエンタテインメントとして消費したいのでしょうか。自分が何も害をこうむっていないことに対して許しを請われても居心地が悪いだけだと思うのですが、それすら楽しめる人たちがいる……ほんとうに摩訶不思議な現象です。

 そして、辞書にも「悪かったと思って」とあるように、ここには不倫=悪という前提があります。不倫……そんなに悪いことですか? といってしまうと怒られそうですが、それでつらい想いをした当事者以外が断罪できるものではないというのが私の考えです。あやまちではあるけど、罪ではない。どんな事情があるのかわかない個人の問題に、〈不倫する女〉というレッテルを貼って社会的に糾弾する様子を見ると、違和感がふくらむばかりです。

 不倫を肯定すると家族のあり方が揺らぐ、と義憤にかられている人もいるでしょう。でもそれって「同性婚を認めると、日本の家族観が崩壊する」「夫婦別姓は、従来の家族観の否定」という主張と同じで、根っこがぜんぜん別の問題を一緒くたにしているだけのように見えます。言ってしまえば、不倫によって壊れる家庭もあれば、壊れない家庭もあります。それ以前に不倫は〈原因〉ではなく〈結果〉である場合もあります。すでに破綻していた家庭だからこそ不倫が起きた、という場合です。そこからしてもう矛盾が生じています。

不倫はそんなに悪いのか

 それにしても、不倫ってそんなに悪いことですか? くり返してしまいましたが、私は、ルールを守っているぶんには自由恋愛の範疇だと思うのです。ルール=自分の家庭と相手の家庭、特にそれぞれの子どもを巻き込まないということです。そういう意味では件のタレントさんはそれに反していますが、そうだとしても当事者同士の問題であり、外野がどうこう言えるものではないのでは。

 その一線を守りながら、切実な思いで不倫の恋を求める人を否定できない……そんな気持ちにさせてくれるのが『妻たちが焦がれた情欲セックス』(イースト・プレス)です。官能小説家の加藤文果さんが15人の既婚女性に取材をし、彼女たちがいま身を焦がしている、あるいはかつて溺れていた不倫の恋について聞き出して1冊にまとめたものです。

 どのエピソードも究極にセクシーです。情事のシーンは官能小説家としての本領がいかんなく発揮されていて、たいへん上質なオカズとなります。はい、私も活用させていただきました! なかにはアナルセックスとか乱交サークルとか屋外露出とか、かなりアブノーマルなプレイも出てきて刺激的ですが、それ以上に読後、胸に残っているのは、不倫をする女性たちの心模様でした。

 本書では不倫を善いものとして推奨しているわけでも、悪いものとして断罪しているわけでもありません。善悪の二元論に落とし込めるものではなく、ただ男と女のあいだにただ起きてしまうもの。否定している人だって、いつそこに落ちるかわからない。ネットで相談に乗ってくれた男性と会ったその日にホテルまで行った人妻さんが「そんなの一部の常識のない人たちがやってることだって、どちらかというと軽蔑してました」というとおり、どんなに道徳観念&貞操観念が強い人だって不倫を求める瞬間があるかもしれない。そんな危うさをまったく抱えていない人がいたら、尊敬すべきなのでしょうが、ツマンナイ人だなとも思ってしまいます。

 15人の女性には15通りの〈不倫に走った理由〉があります。いくつかの類型には分けられますが、誰ひとりとして同じ人はいません。〈不倫をする女〉という一律のレッテルを貼ることなどできないのです。夫とのすれ違い、圧倒的な孤独感、漠とした不安感、失ってしまった女性としての自信、自分にはどうにもできないほどの欲望。「そんな程度のことで」と思われるかもしれません。たしかに同じ環境下にいても不倫しない人はたくさんいるでしょう。でも、その人にとっての切実さを他人が測ることはできません。

脆さを否定される窮屈感

 先ほどセックスシーンがいかにエロいかをアツく語ってしまいましたが、それぞれの人妻さんの物語を読むと、ただ肉欲を発散するためだけのセックスではないことがよくわかります。裸になった自分を丸ごと受け止めてくれる人がいる悦び、そこで得られる自己肯定感。法律上の配偶者に求めても得られないというだけで、それを完全に諦めろというのは酷な話だと私は思います。もちろんそれでも自分を律する人は立派です。でも、自分がそうだからといって他人にもそれを強要するのは理不尽です。いいじゃないですか、弱い部分があったって。犯罪でも何でもない、人のちょっとした脆さすら認めない世の中というのは、きわめて窮屈です。

 そして本書ではいろんな人妻さんが「思春期に戻ったみたい」「高校生のときのような気持ちになる」というようなことをいっています。恋愛ごっこに浮かれていると見る向きもあるでしょうが、何かを求めて不倫をはじめた女性たちがそれぞれに自己を取り戻していく過程でこの台詞が出てくることに私は注目したいのです。それほどのものを与えあう人と人とのつながりは、そうあるものではありません。そうした関係によっていままで縛りつけられていたものから開放され、生きる力を得られるのであれば、その人個人にとってたいへん意味のある時間です。それと引き換えに別の苦悩を引き受けていることもありますが、それでもなお求めてやまないものだったのでしょう。

 再三いいますが、不倫はすばらしい、不倫は文化だw、じゃんじゃんやりましょうというのではありません。それは個人の問題です。あなたは不倫しますか? と訊かれれば、いまの私の答えはNOです。って、その前に未婚なんですが(笑)。かつて「不倫の〈倫〉は社会的な倫理観ではなく、パートナーとのあいだにある個人的な倫理観」とお話してくれた人がいました。まさしく! 私も自分と彼とのそれが確固としているうちは、しないと断言できます。でも……という、その続きはここでは控えます。その可能性がないいま、わざわざ考える必要はないですしね。ただ、どうなったとしても関係者以外の人から責められたり非難されたりする謂れはないとだけはいえます。そして、それをする人たちのことをあまり品がよろしくないな、と思うのです。

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■桃子さん

オトナのオモチャ200種以上を所有し、それらを試しては、使用感をブログにつづるとともに、グッズを使ったラブコミュニケーションの楽しさを発信中。著書『今夜、コレを試します(OL桃子のオモチャ日記)』ブックマン社。 ブログ twitter

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