【独り寝のお作法】

76. 男性用避妊薬の登場は朗報なのか? 粘膜がふれ合う悦びと理性のせめぎ合い


 歌人・俵万智さんの歌に「一枚の膜を隔てて愛しあう君の理性をときに寂しむ」というのがあります。かなり前の作品ですが、初めてそれを目にしたとき、いろいろと背景にある男と女の事情に思いをめぐらす前に、ストンと胸に落ちたことを覚えています。

 ふたりの関係が不倫だからか、はたまた単に男性側に子どもを作る意志がないがゆえか。望まない妊娠を避けるためのコンドームを男性は欠かさない。一方の女性が妊娠を望んでいるかどうかはわかりません。でも、望んでいなかったとしても、ゴム1枚の隔たりを切なく感じる気持ちに、私はシンパシーしかありません。女性にだって「この人とならナマでしたい」「粘膜で直接ふれ合いたい」と願う瞬間はあると思うのです。そうした生々しくも純粋な欲望と、「望まない妊娠を避けたい」という理性とが拮抗し、切なさで胸がいっぱいになる……という経験をしたことのある女性は、決して少なくないのでは。

 あらためて考えてみればコンドームというのは、無粋なものです。女性の凹と男性の凸が合わさるセックスは、よく「ひとつになる」といい表されます。でも、もっともひとつになりたいところに薄いながらも割り込んで、それを阻むのがコンドームの役目。だからこそ、正しく着用すれば避妊も感染症もかなりの高確率で予防できるわけですが、ほんとうにひとつになりたいと望むカップルが物足りなく感じるのは、いたしかたないことです。

 となると、「妊娠を望んでいないなら、女性がピルを使用すればいいじゃん」という話になりがちですが、そう単純にはいきません。ピルはコンドームと比べると高額ですし、経験者の人はおわかりになると思いますが毎日決まった時間に飲まなければいけないというのはけっこう面倒です(慣れれば気にならないという方もたくさんいらっしゃるので、私がズボラなだけかもしれませんが)。それと数カ月に一度は婦人科にいって処方してもらわなければならず、これもなかなかの手間です。そして当然、人によっては服用できない場合もあります。

注射1本で10年避妊!?


 女性主導でできる避妊法で、これなら薄い膜を隔てずしてふたりでひとつになれるピルですが、女性側の負担は少なくない。なんだかんだいって、コンドームがベストチョイスってことになります。そもそも、ピルを使用する場合もコンドームとの併用が理想といわれますしね。

 そんな、これまでの避妊事情を大きく覆すかもしれないニュースが飛び込んできました。イギリスのメディアによると現在、〈男性用避妊薬〉の開発が進んでいて、実用化も視野に入ってきたとのことです。これ、気にならないわけないでしょ!

・薬剤を注射することで、精巣で作られた精子がペニスに運ばれないようにする
・ブロックするのは精子だけなので、射精はできる
 (精液を放出する快感は守られる)
・一度の注射で、最大10年ほどの効果あり
・避妊効果を解除するには、別の注射を打てばよい
・ホルモンには影響を与えない

 ……って、なにコレ、すばらしすぎるんですけど。いったん病院で注射すれば、あとは日常生活に何も影響を与えず、しかも快感はまったく目減りしないって、こんなお手軽でいいの!? と思ってしまうほど。実用化された場合の費用については記事でも触れられていませんが、かなりの額を払ってでもやる価値あり、と考える男性は多いそうです。

 そのうえ、子どもが欲しくなったらまた注射1本で避妊効果を解除できるってところがスゴイ。「俺は子どもなんていらないゼ」と避妊薬を注射しても、10年という長い年月のあいだに人は変わるもの。この人との子どもが欲しいと思う女性と出会うことだってありえます。「そういう場合に備えて、精子を凍結しておくのかな」と考えながら記事を読み進めていた私は、SFのような解除法に驚かされました。人工授精や体外受精でももちろんいいんでしょうけど、どうしても女性側に負担を強いることになりますし、これまた解除の注射にかかる費用はわかりませんが、少なくとも妊娠の方法としては自然妊娠がいちばんローコストです。

 こんなお手軽で都合のいい避妊薬……男性がうらやましくなります。ピルはわずかながら乳がんのリスクを高める、または血栓が起きる可能性が多少なりともあると指摘されています。大きなメリットを得るには、小さなリスクを覚悟しなければいけないというわけではありませんが、ここまでいいこと尽くめだと、ちょっとうがった見方をしたくなるものです。もっとも、まだ開発段階なので、副作用の有無については記事中には記されていないのですが。

やっぱりナマはむずかしい


 いろいろとシュミレーションしましたが、私の頭のなかでは「これが普及したとき、気をつけなければいけないのは女性側だ」という結論にいたりました。「俺、男性用避妊薬を打ってるからさ、大丈夫大丈夫、ナマでいいっしょ」と嘘をつく輩が出てこないともかぎらないからです。注射を打ったことが外見で判別できるわけでもなし、こんなことをいってなし崩し的にナマセックスに持ち込む男の出現は、容易に想像できます。それで妊娠したとして、心身が傷つくのは女性だけ。なかには「だまされた私が悪かった」と自分を責める人が出てくるかもしれません。性犯罪でも何でもそうですが、加害者の悪意より被害者の軽率さが責められるのは、ほんっとーにおかしなことなのですが。

 女性のピルだって見た目ではわからないから、その逆パターンで、「私、ピル飲んでるからナマでいいよ」といってデキ婚を狙うオンナもいるだろ、とオトコたちはいうかもしれませんが、そうはいっても妊娠出産は女性にとって一大事業。もしそれでほんとうに妊娠したとして、男側が逃げる可能性やそのとき自分がどうすべきかを考えると、そんな軽率なことをする人がたくさんいるとは思えません。同列で語るべきことではありませんよね。

 とどのつまり、もしこの男性用避妊薬が普及したとしても、信頼関係を築いていない間柄でのナマセックスは「ダメ、絶対」なのです。そもそもこの新薬にしたって女性のピルにしたって、望まない妊娠は防げても感染症は防げません。

 それぞれの避妊法を信用できる間柄のふたりが、お互い病院で感染症チェックを受け、すべてがクリアになったときしか、安心してゴム1枚の膜を取っ払えないのです。粘膜の生々しいふれ合いと体液の交換は、かくもハードルが高いのですね。

このコラムへのレビュー

コラムに対するご感想をぜひお寄せください。

プロフィール

momoko

■桃子さん

オトナのオモチャ200種以上を所有し、それらを試しては、使用感をブログにつづるとともに、グッズを使ったラブコミュニケーションの楽しさを発信中。著書『今夜、コレを試します(OL桃子のオモチャ日記)』ブックマン社。 ブログ twitter

オススメコラムリスト

掲示板

お支払い方法

クレジットカード
コンビニ支払い
銀行振込
その他の支払方法
ページTOPに戻る