【リオネル・メシ子】
83. 「自分がおかしいのかと思った時期もあった」育児休暇を取得した男性のリアル

女性のキャリアと妊娠・出産は密接な関係がありますよね。以前「妊娠したいけど怖い」という記事の中で、「仕事を休まなければならなくなることへ不安を感じている」ことに触れましたが、子育ては夫婦で行うことが大前提といえど、妊娠中や産後に仕事を休まざるを得ないのは圧倒的に女性が多いのが実情です。
しかし、男性の中にも育児休暇を取得し、子育てに専念した期間があったという方がいます。今回、お話を聞いた中学校教諭のHさん(29)は、一昨年、奥様が出産された後に1年間育児休暇を取得したそうです。今年4月から職場復帰を果たした彼ですが、無事に育児休暇を取得するまで、そしてその間にもさまざまな出来事があったようで……。
――育児休暇を取ろうと思った理由は何だったのでしょうか?
H「妻はSEなんですが、元々産後は早めに仕事を再開したいと言っていたんです。それで、妻の産後の回復が思ったよりも順調だったので、出産して3カ月経った時に『そろそろ職場復帰をしたい』と相談されまして。妻がそういうタイプだということはわかっていたので、僕自身もその前から育児休暇について調べたりと、準備はしていたんです。実際、収入も妻のほうが上でしたから、僕が休んだほうが効率がいいとも思っていましたしね。また、僕たちはすでにどちらの両親とも他界していたので、身内に預けるということも考えられませんでしたが、せめて子供が1歳を過ぎるまでは保育園などではなく自分たちで子育てをしたかったので」
――スムーズに育児休暇の申請は通ったんでしょうか?
H「男性教諭が育児休暇を取ることはほとんどないので、すんなりいかないだろうなとは思っていたんですけど、想像以上に風当たりがきつかったです。校長に育児休暇を取りたいと申し出た時にも第一声が『はっ?』でしたし、同僚の男性教諭には『まさか本気じゃないよな?』と言われました。ただ、男性教諭にも当然育児休暇を取る権利があるので、最終的には年度末から新年度末までの育児休暇を受け入れてもらえましたが、その後もまたいろいろありまして……」
――と言いますと?
H「まず、職場の人間たちは僕とはあんまり関わりたくないといった様子で、明らかに態度が変わりました。校長や教頭も、育児休暇を取る僕のことをあまりよくは思っていないようでしたし、同僚たちも面倒なことに巻き込まれたくないという気持ちだったのかもしれません。また、僕はその時中1のクラスを担当していたのですが、女子生徒たちが『○○先生、育児休暇取るとかおかしいよね』『うちのお母さんも“ありえない”って言ってたよー』と話しているのを耳にしたこともあります。もちろん『頑張ってください』と言ってくれる生徒もいたんですけどね。あとは、テニス部の顧問をしていたのですが、テニス部の生徒の保護者から『部活はどうするんだ』と電話がかかってきたこともありました。女性教諭が育児休暇を取っていた時も、そうした電話はあったんですが、僕の場合は圧倒的にその数が多かったですね」
――権利として与えられている育児休暇を取得しただけなのに……それはツラかったですね。女性が育児休暇を取る場合でも、遠回しに「仕事を辞めてほしい」と言われることもあるようですけど、男性の場合は前例があまりない分、大変そうです。
H「ただ、僕の代わりになる教師は山ほどいるけど、妻には僕しかいないし、子供にとっての父親も僕だけです。正直、同僚や生徒、保護者の反応を目の当たりにした時に『自分がおかしいのか』『周りの人に迷惑をかけてるし、もう少し育児休暇の期間を短くするべきか、もしくは休暇にはせずに時短勤務にしたほうがいいのか』と考えたこともありましたが、やっぱり自分たち家族が一番幸せに過ごせるのは自分が育児休暇を取ることだと思いました」
――そうした周囲の反応を気にして、育児休暇を取ることを躊躇したり、はなから育児休暇は男性が取るものではないと考える人がいる中、固い意思を貫いたHさんはすごいです。その後、育児休暇中はどうでしたか?
H「当然ですが子育ては初めてなので戸惑いの連続でした。元々家事は嫌いじゃなかったので、掃除や料理なんかもしていたんですけど、子供の面倒を見ながら行うとなると全く別物ですね。近所のスーパーへ行くと、勤務先の中学の生徒の保護者がいてヒソヒソと陰口を言われたこともありましたが、逆に子育てのアドバイスをくれた保護者もいて、すごく助かりましたし本当に心強かったです。妻も仕事をしつつ、土日は僕が休めるように家事をしてくれましたし。いまはもう職場復帰したんですが、最初こそ気まずさがあったものの、もう気にならなくなりました。子持ちの女性教諭と子育てについて情報交換するのが楽しいです(笑)」
周囲からの否定的な態度を目の当たりにしてツライ思いをしたものの、家族の幸せを一番に考えて行動に移したHさん。「育児休暇は男女どちらも取れるもの」という当たり前の認識が広まり、夫婦が納得のいく形で育児ができる世の中になっていくことを願います。
(リオネル・メシ子)
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